大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(く)91号 判決

本件抗告の要旨は申立人は昭和二十七年十月二十九日本件第一回の公判閉廷後水戸簡易裁判所に対し保釈の請求をなしたところ、同裁判所は「被告人は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」として右保釈請求を却下した。しかるところ、本件公訴事実は「被告人は昭和二十七年十月八日午後二時三十分頃上り国鉄二二八列車が植田駅発後同駅附近を進行中同列車前部四輛目客車デツキ上において、池田清治の上衣胸ポケツトに左手指を入れ金品を窃取しようとしたが目撃中の警乗員に逮捕され、その目的を遂げなかつたものである」というにあり、その右同日の公判廷において検察官は、その立証として、右逮捕警乗員及び被害者池田清治の証人尋問を申請し、裁判所はこれを許容したものである。右の次第であるから本件において被告人の有罪無罪を決定するについて最も重要な証拠となるものは次回公判期日における逮捕警乗員の供述であるといわなければならない。されば今被告人を保釈釈放するとしても、右警乗員が、同人の逮捕により起訴されるにいたつた被告人から請託を受けて、ことさらに被告人に有利な証言をするが如きことの到底期待し得られないものである以上、被告人の釈放により、罪証を隠滅すると疑うに足りる事由が発生するとは考えられないのであるから、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして本件保釈を却下した原決定は失当であり、これが取消を求めるというのである。

よつて按ずるに、本件公訴事実が申立人主張の如きものであること、昭和二十七年十月二十九日水戸簡易裁判所におけるその第一回公判期日において、検察官から所論のように証人申請があり許容されたこと、同日弁護人からの保釈請求に対し同裁判所が「被告人は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」としてこれを却下したことは、いずれも記録に徴し明らかである。しかしながら、右第一回公判調書によれば被告人は被告事件に対する陳述として、「起訴状には私が手をポケツトに入れた様になつていますが私は手を動かしただけで、実際には手を入れていません」と主張しており、結局被告人は、すりという特殊の犯罪につき、右のような極めて微妙な答弁をしているのであり、かつ、公判手続が漸く検事の立証段階に入つたにすぎない点をも併せ考えれば、本件は刑事訴訟法第八十九条第四号にいわゆる被告人に罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合に該当するものと解すべきは当然である。そしてこの場合、かりに、所論のように逮捕者たる警乗員に対し罪証隠滅の方法をとられる余地がないとしても、単にこれをもつて右の結論を左右するものでないことは、また、論をまたないところである。すなわち原決定は相当である。

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